サービス改革担当者・CS推進担当者の学びの場

松井拓己さんインタビュー 第4回「あきらめない」ための土台を作る

 全4回にわたって、CS寺子屋の師匠松井拓己さんに、新著「日本の優れたサービス2 6つの壁を乗り越える変革力」についてお話をうかがっています。 (第1回第2回第3回はこちら)

 多くの企業のサービス改革に立ち会ってきた松井さんならではの、キレイごとばかりではない「改革の現場」を熱く語っていただきました。改革のヒントが満載です。ぜひ、著書と合わせてお読みください。

-やはり改革は一筋縄ではいきませんね。新著でも、意外と「あきらめない」がキーワードになっていて、読んでいてとても親近感がわきました。

ははは。そうですね。「あきらめない」は、実際、成功事例の大きなキーワードになっています。いわゆる上昇志向というよりももっと、地に足がついた感じで「あきらめない」企業が成功している。

「あきらめない」って、実はそんなに壮大な決意とかではなくて、「妥協しない」ことでもあるんです。忙しい現場であるほど、実は妥協の産物の仕事が多いものです。本当はもっとこうしたい、ということを密かに考えている人が実は多い。

いろんな制約のために妥協に慣れているメンバーに、妥協しないでやりたいことを全部言うようにというと、だんだん議論に火がついて、おもしろくなってくるんです。

人間、楽しいことって時間がかかってもやれますよね?メンバーに火がついて、おもしろがれるようになると、改革は盛り上がります。

-妥協しない=「あきらめない」議論は確かにおもしろそうですね。
でも、経営者にとっては、もっと悲壮な「あきらめない」もあるように思えました。

-言い方は悪いですが、業績が「ヤバい」企業が改革を打ち立て、時間がかかっても成し遂げる、みたいな成功事例が多いじゃないですか。なぜ、そんなことができるんですか。

ああ。それはそうですね。改革というのは時間がかかるだけでなく、常にいくつもの壁にぶつかることが前提としてあります。まさに、この本のタイトルにもある「6つの壁」ですね。

そういう壁を乗り越えるのはとても大変なので、乗り越えるために強力な動機付けが必要になります。「業績の悪化」という危機感は、圧倒的に強い動機になるので、実は「ヤバい」企業ほどイノベーションのチャンスだということもできます。

逆に言えば、たとえば右肩下がりの業界で、なんとかしなければならないことは明白なのに変化に至らないままでいる企業は、経営が「あきらめている」ということです。

-なかなか厳しいですね。そういえば、新著ではこの「壁に向かう力」を強調したいとおっしゃってました。

壁に立ち向かう前からあきらめて欲しくないのです。お客さまの事前期待がもやもやしてよく見えないでいるときに、そのもやもやの中に突っこんでいけなければ、はっきり言って生き残れません。

壁に向かう力がないと、もやもやを要領よく避けることはできても突っこんでいけない。壁を乗り越えるためには、何がもやもやしているのかを社員が徹底的に話せるかどうかがカギで、そのためには、やっぱり経営が「あきらめない」ことはとても大切です。

「あきらめない」というと、ともすると根性論ととらえられがちなのですが、実はそうではなくて、あきらめないための根拠を持ちましょうということです。それが「壁に向かう力」だと考えています。

先ほど 「まぐれ当たり」に頼らずロジカルな土台を固めるというお話をしましたが、そういった論理的な土台があることが、あきらめないためにも必要なんです。

-師匠の考えるサービス改革の今後の展開をお話いただけますか。

サービス改革は、業界を問わずどんどん広がっていくと思います。メニューでも価格でも機能でも差がつかない業界ほど、サービスで差が付きます。なので、どんな業種でもサービスが重要視されていくと思います。

そして、サービス改革は論理で土台を固めないといけませんが、その改革を推し進めるのが「思い」であることも間違いありません。

改革の現場では、パートやアルバイトでも「思い」をもって働いている人がたくさんいます。どうせ働くなら、やりがいをもって、働く意味をコミットしたいという人は、案外多いのです。

経営者はこのことをもっと大事にすべきだと思いますね。

現場のメンバーにこの事業をどうしたいのかをとことん考えて貰えばいいんです。ビジネス経験やスキルは関係ありません。どんな立場でも、徹底的に考えることが大事なんです。

事前期待のもやもやの中から、自分がやりたい、自分が応えたい事前期待を探し出してもらう。そしてそれを、自分の言葉で言語化してもらう。

すると、自ずと現場の目線は経営目線まで上がってきます。そのうえで、経営が考える事業のビジョンや問題意識もぶつけてみたら良いと思います。サービス経営こそ、顧客接点にある現場と経営とが「共創」することが大切です。現場が経営のパートナーになっているでしょうか?

これからのサービス改革を成功に導くのは、あきらめることなく、現場と徹底的に議論することのできる経営者だと思います。

-いつもながら、熱いお話をありがとうございました。

-最後に、ここCS寺子屋に集う、サービス改革を行う皆さまにメッセージがあればお願いします。

やるやらない、できるできない、使える使えない、変えられる変えられないを、決めるのは自分自身です。

このCS寺子屋や書籍、サービス大賞の受賞事例が、「あきらめない」ことを選択し続ける背中を少しだけでも押せたら嬉しいです。

「向き不向きより、前向き!」

-ありがとうございました!

全4回でお送りしました、松井拓己さんインタビューは以上です。最後までお読みいただき、ありがとうございました。 (第1回第2回第3回はこちら)

松井拓己さんプロフィール

「日本の優れたサービス 選ばれ続ける6つのポイント」
「日本の優れたサービス2 6つの壁を乗り越える変革力」

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