「顧客満足度が向上したのに売上やリピートが増えない」という壁にぶつかることは少なくありません。この壁にぶつかったCS向上活動をひも解いてみると、努力の方向に問題があるケースがあります。CS向上を成果に繋げるためには、努力の方向を切り替える必要があるかもしれません。
■CS向上の努力の方向性とは
CS向上に熱心な企業では、実に様々な取り組みがされています。
例えば、年に数回、顧客満足度調査を実施し、お客さまから頂いた声をサービス改善に活用しています。また、現場の優秀事例を社内で共有したり、年に何度かのCS総会で表彰しています。
一例を挙げると、「お客さまからのクレーム数が劇的に減った」「サービス品質のバラつきがなくなった」「納期遵守率が大幅に改善された」「ミスが減った」など。その結果、お褒めの言葉をいただいたり、顧客満足度が向上した、という具合です。
また、日頃から現場のサービスレベルを評価したり、サービスの改善に取り組んでいる企業もあります。例えばミステリーショッパーやミステリーコールを活用して、現場のサービスの実体をスコア化して評価したり、小集団活動を通してサービスの改善提案を現場から募ったりと、日常的にサービスの改善を意識しています。
これらの取り組みで努力しているのは、まだまだ「失点をなくすための努力」が多いようです。少し思い返してみてください。
例えば社内の優秀事例として評価されているもののほとんどが、失点をなくした事例ではないでしょうか?ミステリーショッパーなどで活用しているサービス現場のチェックリストのほとんどの項目が「失点していないことのチェック」になっていないでしょうか?社内で活用しているマニュアルや、人材育成のための研修は、失点しないためのものばかりになっていないでしょうか?
もちろん、「失点をなくす」ための努力はとても大切です。クレームが頻発している状況では、失点をなくす努力なしにサービス事業の存続はないと言えます。ある意味で、CS向上の取り組みの第一歩は、失点をなくす努力から始まると言えます。
しかしお客さまにしてみれば、いくら失点をなくす努力をしても、「そんなことは当たり前でしょ」と言いたくなってしまいます。今の時代、失点をなくす努力だけではお客さまは喜んでくれないのです。CS向上の取り組みとして、失点をなくす努力ばかりに専念するのは得策ではないのです。
ではどうすればいいのでしょうか?
■「得点を増やす」という方向にCS向上活動の舵を切る
以前「CS向上を継続できていますか?」という記事で、こんなデータをご紹介しました。顧客満足度とリピートオーダーの可能性の相関を分析したところ、お客さまにリピートしていただくためには「大満足あるのみ」だということが分かりました。「やや満足」と答えたお客さまの実に97%がリピートしない可能性があるというものです。
つまり、いくら不満を解消するための努力(失点をしないための努力)を積み重ねても、お客さまに「大満足」していただくための努力(得点を増やすための努力)をしなければ、リピートオーダーは増えないのです。このことからも、これからのCS向上活動は得点を増やす方向に舵を切るべきだと分かります。
「得点を増やすための努力をすべき」。言われてみれば当たり前に思うかもしれませんが、これがなかなかできないことが実に多いのです。
■得点型の顧客満足度調査は、「平均値」を見ない
では、顧客満足度調査を得点型に切り替えるにはどうしたら良いのでしょうか?
多くの企業では、顧客満足度の目標値として、平均値や「やや満足」と「大満足」の合算値を据えていることが多いものです。平均値や合算値が上昇するということは、「不満が減る」という意味では良い目標だと言えるかもしれません。しかしこれは「失点」を減らしたにすぎず、「得点」が増えたとは言えません。
顧客満足の平均値が上昇しても、「大満足」したお客さまが増えていなければ意味がないのです。これに気付かずに、顧客満足度の平均値が少しずつ向上しているからと安心して活動を続けていても、なかなか成果は出てこないことでしょう。そして最終的には「CS活動を長年続けてみたものの、結局はコストがかかるだけで経営貢献に繋がる成果が出なかった」という不本意な結果になりかねません。
CS向上の目的をリピートオーダーの獲得とする場合には、顧客満足度の目標は平均値を高めることではなく、大満足のお客さまを増やすことです。つまり、取り組みの目標を「CSの平均値をいかに高めるか」から、「やや満足のお客さまにいかに大満足していただくか」に切り替えて組むことが極めて効果的です。
しかも、「やや満足のお客さま」は、個人名や会社名が分かっても、「どうしたら大満足していただけるか」は分かりません。それよりもむしろ、「どんな事前期待を持った方が、やや満足と答えたのか」を知る必要があるのです。
このように、得点型の顧客満足度調査を推進するためには、これまでの取り組み方を大きく変えなければならないと分かります。
■得点型のサービス品質向上は、評価項目が違う
また、多くの企業で取り組まれているのがサービス品質向上の取り組みです。この取り組み方も、失点をなくすことに注力されていることが多いため、得点型に切り替えることで大きな成果に繋がることがよくあります。
例えばサービスの現場の品質を頻繁にチェックして、品質指標の推移をウォッチしている企業は多いと思います。あるいは、ミステリーショッパーやミステリーコールを活用して、サービス品質をスコア化して評価しているかもしれません。そのチェック項目をぜひ見返してみてください。
すると、ミスはなかったか?お待たせしなかったか?無礼はなかったか?といった具合に、「失点していないかのチェック項目」がズラッと並んでいることに気付きます。一方、得点を評価する項目はと言えばごく一部。しかも、ホスピタリティを感じましたか?といった極めて曖昧な評価しかできていないことが多いようです。
もちろん失点をなくすことは大切ですが、失点チェックばかりでは、ミスをしないことばかり気になってしまい、現場が気の利いた得点型の対応をして大満足のお客さま、リピーターのお客さまを増やすためのアクションができません。これからは、得点型のアクションも評価できるサービス品質の項目も盛り込みたいものです。
そこで参考になるのが、以前紹介した「サービス品質の6要素」です。具体的には、正確性、迅速性、柔軟性、共感性、安心感、好印象の6つです。この中でも、正確性、迅速性、好印象はお客さまにしてみれば「当たり前」であることが多く、失点しないためのサービス品質と言えます。一方で、柔軟性、共感性、安心感は、得点型の評価を頂ける可能性の高い項目です。この6つを意識して、得点型のアクションも評価できるバランスの良いサービス品質向上を進めて頂ければと思います。
*サービス品質については、「サービス品質向上の6つのポイント」の記事をご覧ください。
■得点型の取り組みは、失点をなくしてから?
このように、「失点をなくす」と「得点を増やす」ことについてお話しすると、「うちはまだまだ失点が多いから、得点型はまだ早いのでは」と質問をいただくことがあります。確かに、クレームが毎日頻発している状況では、得点型の努力をしている場合ではないかもしれません。
しかし、得点を増やす努力は、完全に失点をなくしてから行うべきなのでしょうか?
実はそう呑気なことは言っていられません。今の時代、お客さまは「失点がない」だけでは大満足をしてくれません。失点をなくす努力を継続しながらでも、得点型のCS向上に取り組まなければならないのです。
これからは、いかに得点を増やすことができるかが顧客サービスの競争の土俵になってきます。得点型の取り組みに舵を切り、他社に大きな差を付けて、お客さまに選ばれ続ける。そんなサービスをぜひ実現していただければと思います。