これまでもたびたび触れてきましたが、サービスの人材育成は、OJTという言葉を都合よく解釈して「経験を積みなさい」「背中を見て学びなさい」と、現場や個人の経験やセンスに頼り切っていることが多々あります。
また、サービスに関する研修は、“新人向け”というレッテルが貼られており、中堅やマネジメント層がサービスの本質を理解する機会がないままに、自己流でサービス事業を推進していることが少なくありません。
サービス競争が激化する中で、本質を捉えてサービスをマネジメントできるかどうかが、事業の成長を左右するようになってきました。サービスのマネジメントや今後の経営の中核を担うサービス経営人材の育成を加速する必要性が高まっているのです。
そこでまず今回は、サービスの人材育成の課題や方向性について整理してみたいと思います。そのうえで、次回以降で、サービス経営人材の育成に必要な要素について触れていきます。
■ サービス人材育成の方向性
「うちの現場は、サービスマインドが低くて困っています」という相談を受けることがあります。その背景を探ると、現場よりも、サービスのマネジメントの方向性に問題があることがよくあります。“失点撲滅型マネジメント“で、「いかに失点をなくすか」ばかりに重点が置かれているのです。
例えば、失敗事例が組織内に共有され、クレームやミスに対して徹底的な指導や管理が行われて、失点しない社員が評価されています。このようなマネジメントの方向性の中では、サービスマインドを発揮して顧客からの評価を高める取り組みは”報われない努力“となることが多く、現場はサービスマインドを発揮する場や気持ちを失っていきます。やがて社員は働きがいを見失って疲弊し、働き盛りの中堅社員が離職していくといった具合に、サービス事業は負のスパイラルに陥る恐れすらあります。
サービスの価値を高めて事業成長をドライブするのであれば、サービスマネジメントの方向性を“失点撲滅型”から“得点評価型”にステージアップさせる必要があるのです。
そのためには、サービス経営人材が、得点型でサービス事業を成長させるためのシナリオと、それを実現するための勘所を、サービスの本質と共に理解していなければならないのです。
従来、サービスの人材育成は、業務知識やマナー、クレーム対応の研修といった具合に、若手向けに失点をなくすための教育やトレーニングが中心でした。しかし最近では、中堅やマネジャー向けに、得点を増やしたり、得点型マネジメントを実現するための人材育成に積極的に取り組む企業が増えています。サービス経営人材育成を加速するためには、まずは人材育成体系の中で、「若手向けから、マネジメント向けまで」、「失点と得点」のバランスを見直す必要がありそうです。
■サービスのハイパフォーマーの育成と悩み
サービス改革をお手伝いしていると、様々な業界の各社に“ハイパフォーマー”と呼ばれる人材がいることが分かります。いつも営業成績の良い営業マン、個人指名でリピーターや顧客紹介が集まるサービススタッフなど。サービス事業は、こういったハイパフォーマーに支えられていることが少なくありません。
裏を返せば、ハイパフォーマーの頭数で、事業の規模が決まっているようなケースが多々あります。ハイパフォーマーの育成は、事業の成長と直結しているのです。
ハイパフォーマーはやがては、次世代のサービス経営幹部として、サービスのマネジメントを担うようになっていきます。マネジメントとして組織で成果を出す役割を担うと、ハイパフォーマーは壁にぶつかります。これまで経験知や直観を活かして成果を挙げてきていることが多いために、なぜ自分が成果を出せたのかを、うまく周囲に説明ができないのです。
「当たり前のことを当たり前にやるだけ」、「気づきが大事」、「お客さま目線で考えろ」と、抽象的な言葉が並び始めます。ハイパフォーマーをマネジメントに据えるだけで、次のハイパフォーマーが育つとは限らないのです。
そこで、ハイパフォーマーを、サービスの本質論で論理的に分析をしてみると、いくつかの構成要素に整理することができます。次回はこの観点で、サービスの人材育成の盲点や「伸びしろ」を明確にしたいと思います。