「サービスサイエンス実践事例」シリーズでは、さまざまな企業におけるCS向上の実践事例をお届けします。 サービスサイエンスの理論を実践している企業の事例から、「経営者や現場の担当者さまがどのような想いを抱えているのか」、「実践にあたってどのような工夫をされているのか」などをお伝えすることで、組織的なCS向上の実践の一助となることをめざしています。
<今回の登壇者>
聞き手:松井拓己さん(CS寺子屋師匠、株式会社エデュテイメントプラネット取締役)
語り手:柳田善弘さん(株式会社エデュテイメントプラネット代表取締役社長)
株式会社エデュテイメントプラネット
全社員教育向けのeラーニング教材を企画・制作し、独自のLMS(学習管理システム)とともに提供する。教材はコンプライアナス研修、ハラスメント防止研修、個人情報保護研修、情報セキュリティ研修など企業運営に欠かせないテーマを中心に揃えており、企業の要望に応じたカスタマイズ教材の制作にも対応している。
■お客さまと自社、双方にとって有益な「リピート」のために
松井:エデュテイメントプラネット(以下、EP)では、サービスサイエンスにまつわる取り組みをはじめて数年が経ちますが、そもそも柳田さんはどういったきっかけで「サービスサイエンス」や「CS向上」に着目するようになったんですか?
柳田:まず前提として、弊社の主軸であるコンプライアンス研修やハラスメント防止研修といった全社員教育は、単発の研修を実施すればよいというものでありません。コンプライアンス施策全体のなかにeラーニングを用いた研修が教育施策としてあり、高い品質の研修をさらにブラッシュアップしながら定期的に実施して繰り返して学ぶことで、施策全体の効果が高まるものだと考えています。そのため、一度契約されたお客さまに毎年最新版の研修を実施いただく「リピート」が、お客さまにとっても、我々にとっても、非常に重要だと考えています。
リピートの重要性はずっと認識していたものの、リピートをしていただくために何をしたらよいのかが分からず、リピートしていただくための戦略もとれていませんでした。そこで、サービスを成果とプロセスに分解して考えたり、お客さまの事前期待を整理したりする、サービスサイエンスの理論に注目するようになりました。
■リピートのカギは「大満足」
松井:リピートが重要だと分かっているにもかかわらず、それは結果論であって、自分たちでコントロールできるようなものではないと考える方が少なくありません。しかし実際は、お客さまの事前期待を見極め、その事前期待に応えるサービスを提供することで、リピートを増やしたり、お客さまによる別のお客さまの紹介を見込んだりすることができるのです。
特にリピートのカギを握るのが、お客さまの「大満足」です。たとえお客さまの事前期待に応えるサービスであったとしても、「満足」や「やや満足」と評価されるレベルでは、リピートや紹介にはつながりません。「大満足」という評価をいただけるようになることが大切です。(『顧客満足度調査の着目点は?』参照)
柳田:松井さんがおっしゃるようなリピートのメカニズムをしっかり理解して、サービスとして注力すべきポイントを明確にし、論理的なアプローチをとることで確実なリピートにつなげる。まさにそれが弊社に必要なことでした。
■サービス改革を進めるうえで欠かせない、「事業成果」という視点
松井:EPの場合、お客さまにリピートしてもらえるかどうかが、事業の継続性や成長性に大きくかかわってきますからね。
柳田:その通りです。お客さまの事前期待に応えるサービスを提供して、お客さまに喜んでいただくことはもちろん重要です。eラーニング業界は商品やサービスがコモディティ化しているともいえるので、そのなかで差別化を図るためにも、サービスサイエンスに基づいて自社のサービスのプロセスを精査していくことは有効だと思っています。
しかし、会社を営んでいる以上、お客さまの満足と並行して、「事業を継続・成長させる」という視点も欠かせません。限られたリソースで事業成果を出すために、どのサービスに注力すればよいのか。それを考え、実行するために、サービスサイエンスの理論を理解し、実践に落とし込むことは非常に重要だと考えています。
松井:『誰も犠牲にしないサービス向上~自己犠牲のサービスから抜け出す』にもある通り、お客さま・事業・従業員のいずれかが犠牲になっているようなサービスはうまくいきませんからね。
■共通言語と意識強化に資するサービスサイエンス研修
松井:EPではこれまで、サービス向上施策の一環として、①サービスサイエンスの概要講義(対面講義)、②サービスサイエンス基礎編(eラーニング)、③CS道場(LMSを活用した定期配信コンテンツ)、の3つの研修を実施してきました。
経営者として、これらの研修の成果をどのように捉えていますか?
柳田:一番大きな成果は、「事前期待」という言葉が社内の共通言語になったことだと思います。「事前期待」とたった4文字ですが、この言葉にはサービスサイエンスのさまざまな要素が詰まっています。そのため、社員一人ひとりがそれらの知識をきちんと理解していれば、「事前期待」という共通言語で会社や事業の方針を示すことができ、さらにその意図するものを認識のズレなく社員に伝えることができるため、社内のコミュニケーションコストを抑えられるのです。
共通言語を持つことに加えて、サービスに対する意識強化にもつながっていると思います。たとえば弊社ではプライバシーマークを取得していて、これが「個人情報を保護しなければならない」という強い意識を常に持つことにつながっていると感じています。サービスサイエンスについても同じように、各研修を受講して知識を深めるなかで、「CSを念頭に置いて業務にあたらなければならない」という意識が醸成されているように思います。
松井:共通言語を持つことも、事業に携わる社員一人ひとりの意識を強化することも、組織としてサービス改革を推進するにあたって非常に大切なことです。
■研修をふまえた、リピート獲得につながる組織づくり
松井:サービスサイエンス研修を通した認識共有に加え、研修をふまえた社内方針の策定なども進んでいますが、今後EPではどのようなCS向上施策を進める予定ですか?
柳田:「リピートの獲得」を、再現性をもって、組織的にできるようにしていきたいと考えています。
そのためにはまず、リピート獲得のための仕組みづくりが必要です。今、受注時に営業担当がお客さまの事前期待を見定め、その事前期待に応える価値が提供できたか、納品時に運用担当が確認する体制をつくりはじめています。たとえ数社からでもこの体制で運用しはじめたことが、「お客さまの事前期待を押さえたサービスを提供する」という意識づけにつながり、他のお客さまの対応にも活かせていると思います。
『サービス経営人材の育成を加速する』に書かれているように、現在やっていることを丁寧に分析しながら仕組みを検討し、PDCAサイクルを回しながらさらにブラッシュアップしていくつもりです。