サービス改革担当者・CS推進担当者の学びの場

ワンランク上のサービスを実現する

■サービスは「お客さまと一緒に作る」もの

サービスには「お客さまと一緒に作る」というとても重要な特徴がありますしかし、まだまだ日本のサービスは、「良いサービスは喜ばれるに決まっている」という思いで、勝手に作ったサービスを一方的にお客さまに押しつけてしまっているのが現状です。

勝手に作ったサービスには、「余計なお世話」や「無意味行為」「迷惑行為」のような要素がかなりの割合で入ってしまいます。これではお客さまに満足していただくことはできません。

これからは、お客さまと一緒に「共創型」でサービスを作り上げていかなければならないのです。この共創サービスを実現するために、サービスサイエンスではサービスプロセスをモデル化することでサービスを設計します。これにより、具体的にどのプロセスでどんな努力をすべきかが明確になります。

また、プロセスのモデル化を行うと、現場の経験知を組織の力に変えることができます。実は、サービスの現場には経験やセンスで磨いた価値ある知恵や工夫がたくさんあります。しかしそういった知恵や工夫は普段、個人の頭の中やデスクの引き出しにしまい込まれていて、組織で活用できていないことがほとんどです。

これはまさに宝の持ち腐れです。こういった価値ある知恵や工夫を見える形にして、現場の経験知を組織の力に変えることが、CS向上やサービス改革において、極めて重要なのです。

そこで今回は、共創サービスを実現し、現場の知恵や工夫を組織の力に変えて、ワンランク上のサービスを具現化するための方法論として、サービスプロセスのモデル化」について触れてみたいと思います。

■サービスプロセスをモデル化する

サービスプロセスのモデル化は、サービスプロセスに沿ってお客さまの事前期待と、それに応えるためのサービス品質を対応させていくことで、高い顧客満足を得られるサービスを設計するというものです。

■ポイント1 始めに、サービスプロセスを分解して定義する

既にサービスプロセスの定義ができている企業も安心してはいけません。多くの場合、既にされているプロセスの定義は「サービス提供プロセス」の定義のみであることがほとんどなのです。

実はこれでは、サービスプロセスとしては不十分です。なぜならば、「サービスはお客さまと一緒に作るもの」だからです。そこで、「サービス提供プロセス」と一緒に「顧客プロセス」も定義することが大切です。

ポイントは、図にあるように、両プロセスを必ず対にして並べることです。サービス提供プロセスと顧客プロセスを対にして並べて定義すると、実に様々なことが見えてきます。例えばトラブル対応のプロセスをイメージしてみましょう。

サービス提供プロセスでは、サービススタッフが1秒でも早く原因を究明し、トラブルを解消しようと作業に没頭しています。このときの顧客プロセスを定義してみようとすると、書けないことが少なくありません。

では、実際にはお客さまはどうしているのでしょうか。実は、状況を何も知らされずに待たされてイライラしているのです。このようにお客さまへの配慮が足りないことが原因で、トラブルは解消したにも関わらずクレームになってしまうことはよくあります。

こういったことが、顧客プロセスを定義することで浮かび上がってくるのです。顧客プロセスに「何も知らされずに待たされている」と書かれていれば、お客さまにこまめな状況報告をするなどの工夫が必要だと誰でもすぐに気付けるのです。

このように、サービスプロセスは、「サービス提供プロセス」と「顧客プロセス」を並べて丁寧に定義することで、お客さまにとって重要なプロセスが抜けていないか?プロセスはこの順番で本当に良いのだろうか?と、サービスプロセスのあり方を見つめ直すことができるのです。

■ポイント2 プロセスごとに、満たすべき事前期待を定義する

2つ目は、プロセスごとに満たすべき事前期待を定義することです。お客さまから高い評価や高い満足度を頂くために満たすべき事前期待は何かについて意識する必要があります。

事前期待って何ですか」でお話したように、全てのお客さまに共通的な事前期待よりも、お客さまごとに異なる事前期待(個別的事前期待や状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待)にフォーカスして、事前期待を定義する方が効果的なプロセスモデルだといえます。すべてのお客さまに共通的な事前期待に応えても、お客さまにしてみれば「当たり前サービス」でしかないことが多いものです。

こうしてプロセスごとに事前期待を明らかにしていくことで、今までのサービスでは事前期待に応えられない部分が明らかになります。そこがまさにサービス改善のポイントなのです。

また、プロセスごとに事前期待を定義してみると、お客さまにとって重要なプロセスが見えてきます。例えば、「サービスの利用には慣れているので手短に済ませたい」という事前期待のお客さまは、「要望への対応プロセス」を重視することでしょう。

しかし一方で、「サービス利用は不慣れなのでじっくり相談したい」という事前期待のお客さまにとっては、要望への対応プロセスよりもはるかに手前の「ご相談プロセス」が最も重要なプロセスになりそうです。

このように、サービスプロセスの中で特に重要なプロセスを明確にすることは、現場に「すべてのプロセスを全力で頑張れ」と根性論で指示を出すよりも、はるかに効果的だと言えます。

■ポイント3 期待に応えるために発揮すべきサービス品質を定義する

ポイント1,2では、サービスプロセスとお客さまの事前期待を定義してきました。そこで3つ目は、お客さまの期待に応えるための努力のポイントを明らかにするために、発揮すべきサービス品質を定義します。

ただ単に「サービス品質を上げろ」と言われても、具体的に何をしたらよいのかピンとこないというのが、現場の本音だと思います。そこでサービスサイエンスでは、サービス品質を次の6つに分解して定義しています。

「正確性」「迅速性」「柔軟性」「共感性」「安心感」「好印象」これら6つはどれも大切なものばかりですが、その中でも特にどのサービス品質を発揮することに価値があるのかを、プロセスごとに定義することが大切です。(詳しくは「サービス品質の6つのポイント」に解説していますので、こちらもあわせてご参照ください。)

このとき気を付けたいことがあります。サービス品質の議論を進めていくと、いつの間にか事前期待への意識が薄れてしまい、自分達が普段の業務で何に力を入れているかについての議論ばかりしてしまいます。すると、後から冷静になって見返してみると、ここで議論して決めた「発揮すべきサービス品質」が、ポイント2で定義した「満たすべき事前期待」に全く合致していないことに気付きます。

そしてこの結果を見て、いかに普段のサービス品質向上やCS向上の議論が、事前期待への意識が足りず、お客さま不在な議論になってしまっていたかを実感して反省されるケースも少なくありません。

また、サービス品質の議論でよく挙がるのは、「正確性と迅速性が最も重要だ」という意見です。ミスをしてお客さまにご迷惑をおかけしてはいけない、お客さまをお待たせしてはいけない、という思いからの意見です。確かに一理あるかもしれません。

しかし実は競合もここには力を入れていて、お客さまからすると「正確で迅速なサービスは、どの会社も同じでしょ」と思われてしまっていることが少なくありません。競合サービスとの差別化も意識しながら、発揮すべきサービス品質について議論する必要があるのです。

■サービスプロセスのモデル化でワンランク上のサービスを

このようにサービスプロセスをモデル化すると、明日から具体的にどのプロセスで何をすると、お客さまから高い顧客満足を頂けるのかが明確になります。また、現場で評価の高いサービススタッフが、どのプロセスでどんな知恵や工夫を発揮しているのかも見える形になります。

サービスプロセスのモデル化は、サービスプロセスに沿ってお客さまの事前期待と、それに応えるためのサービス品質を対応させていくことで、高い顧客満足を得られる新たなサービスを設計するということです。

この新たなサービス設計に基づいたサービス提供や人材育成を行うことで、今まで経験やセンスだけに頼っていた現場任せでバラつきの大きなサービスから脱却して、ワンランク上のサービスを組織的に実現することができるようになるのです。

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