全4回にわたって、CS寺子屋の師匠松井拓己さんに、新著「日本の優れたサービス2 6つの壁を乗り越える変革力」についてお話をうかがっています。 (第1回はこちら)
多くの企業のサービス改革に立ち会ってきた松井さんならではの、キレイごとばかりではない「改革の現場」を熱く語っていただきました。改革のヒントが満載です。ぜひ、著書と合わせてお読みください。
-新著を読んでいて素朴に疑問に思ったのですが、日本サービス大賞を受賞されている企業は、サービスサイエンスのような手法を体系的に活用されているのでしょうか。
いえいえ。多くの場合は、がむしゃらに努力した結果、素晴らしいサービス事業が生み出されている、ということが多いと思いますよ。
-こういった改革を成し遂げている受賞企業さんは、はたから見るととてつもなく「すごい人」だから成功したようにしか見えないんですよ。
ああ、なるほど。実はサービス事業というものは、「思い」が強ければ、がむしゃらにやってもある程度はうまくいくことも多々あります。
ただ、これからサービス事業をステージアップさせようとするときに、精神論やセンスだけに頼った取り組みでは、あまりにもリスキーです。サービスの本質を理解できれば、多くの企業でのサービス事業の成功確率は各段に高まると思います。
闇雲に改革を進めても、成功するのはごくわずかです。だから「すごい人」に見えてしまう。彼らが「すごい人」だから、こんな改革ができたんだと思ってしまうんですね。
-なるほど。受賞企業の後ろには、失敗した同様の改革がそれこそ死屍累々と転がっているということなんですね。わかります。
サービスサイエンスの大切なところは、再現性があるということなんです。がむしゃらにやっているなかで、「まぐれ当たり」でうまくいくことがあります。それをそのままにしておく企業がとても多い。これは実にもったいない。
「まぐれ当たり」に頼ったサービス経営で、これからの厳しい競争環境を勝ち抜けるほど甘くはありません。だからこそ、うまくいくサービスをロジカルに組み立てるだけで、格段に事業は成長し、競争力を持つことができるんです。目に見えないサービスだからこそ、論理的な土台があることが、実は大事です。
成果を出している人を後から見ると、実はサービスサイエンス的に本質を捉えてやっていたことがわかったりします。受賞した後に、サービスサイエンスを改めて導入して、がむしゃらに積み上げたものをベースに科学で土台を固め直している企業もあります。
-「まぐれ当たり」を狙ってがむしゃらに突き進んでも、やっぱりダメですか。
事業改革や新たなサービス開発などでは、「まぐれ当たり」こそ重要でもあります。「まぐれ当たり」を捨ててしまったり、育てられないで、みすみす変革のチャンスを逃してしまう企業が多いのもまた事実です。
ただ、「まぐれ当たり」だけに頼っても、あまりうまくいかない。センスだけでやってしまうと、土台がふにゃふにゃで、続かないんです。
「まぐれ当たり」をそのままにせず、それをロジカルに構造化して、再利用、再々利用できるようにしていくことが、イノベーションにつながるんですね。
-師匠は、そういうがむしゃらな企業のサービス改革でどういった役割を担っているんですか。
私はそもそもサービスサイエンティストなので、クライアントの事業のステージアップをサービスの観点から支援するという立場で、各社さんの改革をお手伝いしています。
前回お話した事業構造を組み立てなおすような改革は、経営トップがいくら「サービス」だとか「顧客満足」だとか、あるいは「事業成長」などと大儀を語ったところで、現場はなかなか動きません。
そのため「サービス改革部隊」を立ち上げてスモールスタートするような動きになります。私はそういったプロジェクトに入って、ロジカルに問題を分析したり、改革の方向性を一緒に見つけたり、壁にぶつかったとき後押しするようなお手伝いをしています。
-サービス改革プロジェクトを成功させる秘訣は、どういうところにあると思いますか。
そうですね。「サービス改革部隊」という言い方をしましたが、「実験」をすることが、結構、成功要因になっていると思います。
サービス改革というのは、だいだいどこの企業でも現場の「忙しさ」との闘いになるんです。忙しさと戦うには、小さな成功体験の積み重ねがとても大事になります。
なので、現場感覚でスモールスタートして、仮説を立てて、小さな「実験」をして、少しでも成果をあげることを繰り返すのがいいと思います。
-たとえ小さくても、具体的な成果がでないと現場での優先順位が下がってしまうということですね。よくわかります。
そうです。失敗する改革は、だいたいアウトプット先行で、キレイな絵を描いて終わってしまうものです。きれいな絵を描いただけでは成果がでませんよね。
最近ではよく、カスタマージャーニーというのが出てきますが、あれもちゃんと作れば役に立ちますが、たいていの場合、そうじゃない。カスタマージャーニーなのに顧客を主語にしていないケースが非常に多い。
事業者の目線で、顧客の事前期待抜きでカスタマージャーニーを作ると、どうしても「ぎらぎら」してしまうんです。だから、かっこいいカスタマージャーニーを作っても、現場に浸透しません。
カスタマージャーニーは、あくまでも顧客を主語にして、顧客から見て「きらきら」したものにしないと役に立たないんです。
-それは、ちょっと、耳が痛いです。なぜ、そういうきれいなだけのアウトプット先行になってしまうんでしょうか。
まず、サービス設計者がいません。サービスは顧客と一緒につくるものだという大きな特徴があります。だからこそ、サービスの構想を体現するためには、サービスを設計できる人が必要なんですが、実態としては、なんとなくできる人、志がある人が、有志を集めてやっているレベルのことが多いですね。
そもそもサービスを設計するという発想がないことも多いです。経営トップがサービス設計の重要性をわかっていないと、当然、担当者もいないし、サービスガイドやカスタマージャーニーなどのアウトプットの作り方を教わる機会もありません。
サービス設計をきちんと理解しないで、現場の「できる人」が「思い」だけでつくるから「ぎらぎら」してしまうんじゃないかと思います。
(松井拓己さんインタビュー第3回「小さな成功体験を積み上げる」へ、つづきます。)