今の時代、全ての産業でサービスが競争優位そのものになりました。しかし、サービスは目に見えないものなので、サービスで競争優位を築くために、一体何から手を付けたら良いのか分からない。そんな悩みを持つ方が増えています。
そこでサービスサイエンスでは、目に見えない「サービス」を分類し、分解し、モデル化することで、その本質や努力のポイントを明らかにしています。
■2つの軸でサービスを分類する
たとえば、「手順型サービス⇔気づき型サービス」、「ロースキル・ロートレーニングでもできるサービス⇔ハイスキル・ハイトレーニングが必要なサービス」、という2つの軸で分類してみます。
すると、下図のようになります。そこでまずは図の左下の、「手順型で、ロースキル・ロートレーニングでできるサービス」のタイプを見てみましょう。
このタイプのサービスは、配送サービスや清掃サービスなどが該当します。これらのサービスでの努力のポイントは何でしょうか。例えば清掃サービスでは、抜け漏れがあれば、すぐにクレームになってしまいます。つまりこのタイプのサービスでは、抜け漏れのないサービスや、スタッフによるバラつきのないサービスを提供する必要があるのです。
そこで有効なのが、「マニュアルや手順書、チェックリストの活用」です。組織的に均質でミスのないサービスを提供するためには、マニュアルやチェックリストの活用を徹底することが、このタイプのサービスには必要なのです。
次に、図の右上の「気づき型で、ハイスキル・ハイトレーニングが必要なサービス」タイプに目を向けてみましょう。
このタイプのサービスには、コンシェルジュサービスやコンサルティングサービス、カウンセリングサービスなどが該当します。こうして並べてみると、最近様々な業界で、このタイプのサービスに注力していることが分かります。
それでは、このタイプのサービスにおける努力のポイントは何でしょうか。例えば先述した「マニュアルや手順書、チェックリストの活用」を当てはめてみましょう。すると、これらの努力はあまり価値がないことに気付きます。
なぜならお客さまは、コンシェルジュがマニュアル通りの対応をするのは当たり前だと思っているからです。では、具体的にどんな努力に価値があるのでしょうか。実は、コンシェルジュサービスの価値は、「いかにお客さまの例外要求に応えられるか」です。それを実現するためのポイントを考えてみましょう。
■気付き型サービスの代表格「コンシェルジュサービス」の3つのポイント
コンシェルジュサービスにとって最も重要なのは、目の前のお客さまがどれくらい困っているのかを感じ取る「共感性」です。それは、お客さまの言葉だけでなく、行動や雰囲気からも感じ取る必要があります。さらには、お客さまから言われる前にそれに気づいてお客さまに寄り添うことも必要になるかもしれません。
まさにコンシェルジュの腕の見せ所は、「共感性」の発揮です。共感性を発揮して、お客さまごとに異なる事前期待や、状況で変化する事前期待、潜在的な事前期待に気付く。共感性を発揮した対応で、お客さまに「この人に対応してもらえて本当に良かった」と思っていただく。このタイプのサービスは、共感性なくしては活躍することはできないのです。
しかし、コンシェルジュが価値を発揮するためには、お客さまがいかにお困りかが分かっても不十分です。なぜならば、そのお客さまからの例外要求にお応えすることは価値があるのか、逆にお断りしなければいけない要求なのかを、会社の顔として判断しなければならないからです。
この判断は、現場や個人にだけ任せていてはできません。そこで必要になるのが2つ目のポイント「ビジョンの共有」です。お客さまからの例外要求に対応すべきかどうかを、このビジョンやサービスコンセプトに照らし合わせた上で、現場で判断していくのです。
ビジョンやコンセプトは掲げるだけでなく、現場まで浸透させなければ、サービスの現場では価値を発揮できないのですね。
さて、ここまできて、お客さまがかなりお困りで、この例外要求にお応えすることは価値があると、コンシェルジュが判断できたとします。しかしここで、「例外要求への対応は、上司に申請して承認印が必要」という社内ルールになっていては、現場では例外要求に応えていられません。
そこで3つ目のポイントとして、「現場へのある程度の権限移譲」が必要になってきます。例えば対応に際して生じるコストが、決められた上限値を超えなければ、現場の自主的な判断でお客さまへの例外要求に対応できるように権限移譲するのです。
このようにサービスを分類してみると、コンシェルジュサービスのような「気付き型で、ハイスキル・ハイトレーニングが必要なサービス」タイプの努力のポイントとして、「共感性」「ビジョンの共有」「現場への権限移譲」が浮かび上がってきました。
一方で実態は、多くのコンシェルジュサービスは現場任せで、組織的に必要な努力が十分にできていないことが多いものです。先進的なサービス企業では最近、気付き型のサービスを、個人的な“気付き”に頼りきって提供することから脱却するために、気付き型サービスのガイドやサービスモデルを描いて、組織的に運用するケースが増えてきました。
■闇雲に取り組まれがちなサービス向上
これまで見てきたように、サービスを分類してみると、サービスのタイプごとに努力すべきポイントが大きく変わることが明らかになりました。「手順型で、ロースキル・ロートレーニングでもできるサービス」の努力のポイントを、「気づき型で、ハイスキル・ハイトレーニングが必要なサービス」に適用しても、価値あるサービスは実現できないのです。
しかし多くの場合、サービスのタイプを見極めることなく、闇雲にマニュアル化や手順化、チェックリスト化を推進して苦戦していることが多いようです。もちろん、マニュアル化はとても価値があります。しかしその目的を組織でしっかりと共有して、納得感を持って取り組まなければ、取り組みを前進させることはできません。
この納得感を醸成するためにも、自社サービスのタイプと努力のポイントを明らかにする必要があるのかもしれません。
今回取り上げた2つの分類軸以外にも、価値ある気付きに繋がりそうな分類軸はいくつか見つかっています。また逆に、分類してみたけれど気付きが得られなかったという、空振りの分類軸もたくさんあります。
ぜひ今度は、皆さんの業界のサービスにとって価値ある気付きが得られそうなサービス分類をしてみてください。目に見えないサービスを、いつもと違った視点で捉えなおしてみることで、今までにない効果的で具体的な努力のポイントが見つかるかもしれません。