サービス改革担当者・CS推進担当者の学びの場

コロナ禍を越えて進化するサービス~疎で密なサービスモデルへの挑戦

「密」を避けるライフスタイルやワークスタイルへのシフトは、サービス事業への大きな打撃となっています。一方で、この難局を乗り越える過程で、サービスを進化させている企業がたくさんあります。

2015年に始まった日本最高峰のサービス表彰制度である「日本サービス大賞」の受賞事例の中にも、優れたサービスモデルの強みを活かして、コロナ禍において新たな広がりを見せているものがあります。今回はそのひとつを取り上げます。

第1回地方創生大臣賞を受賞した長野県の住宅会社、株式会社フォレストコーポレーションです。主力事業は、自分の家に使う木を山に入って選んで伐るところから参加する、お客様参加型の家づくりサービス「工房信州の家」です。家づくりを家族づくりの物語に変える革新的なサービスモデルにより、圧倒的な価値を顧客に提供し、事業は8年で3倍に成長、働きがいのある会社ランキングに毎年ランクインしている、魅力的なサービス事業です。

ここ数年では、これまで必死につくり上げてきた「家づくりを家族づくり」とするサービスを、サービス科学を活かしてモデル化し、進化・向上させています。そして、このコロナ禍においても、同社の強みを活かした新事業への展開を生み出しています。

革新的なサービスモデルを活かして新事業展開を加速

ポストコロナに向けて、ワークスタイルも密から疎にシフトします。テレワークやワーケーションの浸透にともない、都会から郊外に働きに行くワークスタイルや、郊外に住んでテレワークし、週に数日だけ都心のオフィスに出社するワークスタイルが増えると言われています。

そこで同社が立ち上げた新事業が、信州に新しいワークスタイルを象徴するオフィス「サードオフィス」を持ちましょう、というものです。もちろん、オフィスづくりも、山に入って木を選んで伐るところから始まります。信州の自然と豊かに繋がる家を作ることができる強みと、「家づくりを家族づくり」に変える顧客参加型の革新的な家づくりサービスモデルを活かしたのです。今度は「オフィスづくりをチームづくり」に変え、従業員同士の接点は「疎」であっても「密」な関係性をもって働く新たなワークスタイルを実現する事業です。

この新事業には、1つの会社のオフィスとしての需要だけでなく、複数社でサードオフィスを共同所有して化学反応を生み出したり、ワーケーションとしてリゾートホテルにサードオフィスを組み込んだり、新たな形のシェアオフィス拠点とするなど、当初の想定を超える構想が舞い込んでいます。

また、自治体にとっても、企業誘致と言えば工業団地をつくって製造業の生産拠点を誘致するイメージが強いですが、これからの時代の新たな誘致の形といえます。これにより、地域への移住や交流人口の増加効果などが期待できます。

フォレストコーポレーションは、ポストコロナに向けて変革に取り組む企業や地域のビジネスパートナーとして、新たな進化を遂げようとしています。革新的なサービスモデルの強みを活かして、社会や経済の危機を救う新たな事業に活躍の場を広げているのです。

「疎で密」なサービスモデルへの変革

ポストコロナに向けて顧客接点が「疎」にシフトすることは、生産と消費が同時に行われるサービスにおいて、価値を共創する機会の減少を意味します。顧客との関係性までも「疎」になる恐れもあります。顧客接点が「疎」であっても、顧客との関係性を「密」にし、サービスの価値を高める工夫をサービスモデルに組み込む必要があります。

また、ワークスタイルが「密から疎」に向かうと、仕事へのモチベーションやチームで仕事をする意識をいかに維持・向上するかが課題となります。最近では、サービスモデルに従業員のやりがいや仲間意識を高める工夫を組み込むケースが増えています。このサービスモデルが機能するにつれ、人材のやる気と連携が高まり、サービス価値の向上が加速していくでしょう。

このように、ポストコロナに向けたサービス改革は、直接接点が「疎」であっても関係性は「密」になり、サービス価値を高められるような「疎で密なサービスモデルへの挑戦」だと言えそうです。

今回取り上げたフォレストコーポレーションはその一例です。サービスの生産性向上が長年の課題である日本ですが、サービスの価値向上と効率化を高い次元で同時達成するような、日本流のサービスイノベーションに取り組むきっかけになるのかもしれません。 

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