7月に新著「日本の優れたサービス2 6つの壁を乗り越える変革力」を生産性出版から上梓されたサービスサイエンティスト松井拓己さん。CS寺子屋の師匠でもある松井さんに、著書にまつわるお話をうかがいました。
「日本の優れたサービス2」は、前著「日本の優れたサービス 選ばれ続ける6つのポイント」と同様、「日本サービス大賞」の受賞事例を取り上げ、サービスの本質に迫る内容になっています。
また、新著では特に、改革の時に誰もがぶつかる「壁」を乗り越える事業変革ストーリーにポイントをおいています。サービス事業の変革に踏み出す糸口として、そして壁を乗り越えるガイドとして、役に立つ内容となっています。ぜひ、手にとってみてください。
今回のインタビューでは、多くの企業のサービス改革に立ち会ってきた松井さんならではの、キレイごとばかりではない「改革の現場」を熱く語っていただきました。改革のヒントが満載です。ぜひ、著書と合わせてお読みください。
-この度は、新著の出版おめでとうございます。普段はビジネスパートナーとしてお会いしていますが、今日は師匠と弟子という立場を利用して、つっこんだお話をうかがいますね。
ありがとうございます。いい機会なので、私もざっくばらんにお話できるといいと思ってきました。
―最初から失礼なつっこみですが、実は、「日本の優れたサービス」というタイトルが気になっていまして。
ーグローバル化の世の中にあって、あえて「日本」を強調するのはなぜですか。
ああ、なるほど。そうですね。輸入物ではない、日本らしいサービス経営事業をもっと増やしたい。日本のサービス経営やその理論が世界中から注目されることを目指したい。そんな思いです。
確かに日本サービス大賞の応募企業にもグローバル企業は増えています。第2回からはJETRO賞もできたし、グローバル化はこれからのテーマにもなると思います。
でもそれは、海外で流行っているものを紹介する、みたいな形ではなく、日本流の柱を作って、グローバル化するという流れなんです。
-それは具体的には、どんなことが行われているのでしょうか。
そうですね。最近の事例では、「日本流サービス」のグローバル展開がキーワードになっているように思います。レストランや小売店などで、欧米やアジアに展開しようとするときに、「日本流サービス」の型がないことが課題になるのです。
フランチャイズ展開の際には、ビジネスモデルや物資ではなく、「日本流サービスの型を展開してほしい」という要望があるのに、返すものがないのが現状です。
日本のサービスは世界からも評価が高いので、それを取り入れることは現地の事業者にとっても価値があります。けれど、日本流サービスの型がないので、現地の事前期待に合わせた「現地化」もできないのです。
-提供できる型が、ない。
もちろん日本流サービスの型を現地化して、さらに進化させることで大成長している日本企業もあります。
こういった企業では、海外で作り上げたサービスモデルを今度は、日本のサービスに取り入れています。いったん日本に戻して、いわば日本と海外を行ったり来たりして、サービスを革新していくことができています。
海外で新しいビジネスモデルやデザインを展開できると自信にもなるし、それを取り入れてさらによい事業モデルを組んでいくような動きは、まだまだこれからだと考えています。
―なるほど。一方的な輸入ではなく、相互成長を目指しているんですね。
-ほかに、サービス改革の現場で、新たな動きが感じられることはありますか。
数年前までは、業界内のトップランナー企業がサービス改革に熱心でしたが、今ではサービス業に限らず様々な業界や地域の企業で、事業の成長戦略や競争戦略として「サービス改革」を位置付けて、本気で取り組むケースが増えているように感じます。
でも、いざサービスを改革しようとしたら、何から手を付けたら良いか分からないというケースがほとんどです。そもそも「サービスとは何?」から共通認識をし直して進めなければ、うまくいかないのです。
-ああ、それは心当たりがあります。それはどんな業界でも同じなんですか。
最近では特に、「第2次 製造業のサービス化」という時流を感じています。「製造業のサービス化」を経営課題に掲げている企業は多いですが、これまでは、「意識」や「心がけ」としてこのテーマを捉えていることが多かったと感じています。それが、確実に変わってきています。
ここ最近、大手製造業さんのサービス改革をいくつかお手伝いしていますが、その多くが、「サービスを起点に事業を組み立てなおす」という大規模な変革です。いわばサービスの視点で事業構造を組み立てなおすような企業の根幹にかかわる話です。
-事業構造を組み立てなおすとはまた、ずいぶんな英断ですね。
そうなんです。プロダクトを提供する製造業として長年やってきた企業が、事業の運営自体をサービス軸にしなおすというのですから、それはもう大変な決断です。
-なぜ、製造業はそういったサービス化を目指すようになったのでしょうか。
要因はいろいろあると思いますが、製造したプロダクトを提供する、いわば「使い捨て」の事業形態から、例えば利用時間や利用量に応じたサービスで「使い続けてもらう」事業形態に転換している。
顧客との関係性を強める事業形態に転換しないと生き残れないということなんだと思います。
(松井拓己さんインタビュー第2回「「まぐれ当たり」のサービス経営から卒業する」へ、つづきます。)